2007-07-21

マイケル・デル:デルの革命



パソコンの勝ち組、デルが最近おかしい。『デルの革命』が書かれた2000年の頃のDellと、今のDell、評価が大きく変わっている。会社の寿命は30年という本もあったが、企業の栄枯盛衰のスピードがますます加速しているようだ。

そもそもPCは、IBMをはじめとするメインフレームコンピュータが、すべての技術を自社で独自開発し、顧客が他社システムに簡単に乗り換えられないやり方に挑戦することで大きく発展した。CPUはインテルがグローバル標準となり、OSはマイクロソフトというように、独自技術からグローバル標準技術にとって変わることで、どのPCメーカも世界標準のPCを作れる。ユーザもどのメーカのPCを買っても、古いPCから新しく買ったPCに容易に乗り換えられる利便性を享受した。いわゆる垂直分業から水平分業へ。IBM独占から、それぞれ専門分野で活躍する企業が世界に飛躍することになった。

世界規模の需要を賄うため、部品も大量生産でき、価格がどんどん下がる。どのメーカのPCも大差なくなり、価格が勝負となる。こうした状況下、世界の18%のシェアを握り、受注生産でお客さまの望むPCを短期間で製造販売し、ミドルマン(販売店)のマージンなしで直接販売するデルがダントツの強さを発揮した。

ところが最近は、PCの機能がユーザに取って十分向上し、使い勝手もよくなり、新製品に買い換えてもさほどメリットがなくなってきた。さらに携帯電話でもインターネットやメールが使えて、携帯電話は持っているが、PCは持っていないという中高生やお年寄りが増えてきた。こうしてPCの販売台数が伸び悩むようになり、デルモデルに陰りがみえてきているのが今の状況。

こうしたPCメーカの栄枯盛衰の波にのまれ、アップルもPC業界で取り残されつつあった企業のひとつ。ところが、2001年にiPodを発売して、息を吹き返し、今年6月にはiPhoneを発売し、携帯電話の世界をも席捲しようとしている。技術革新の波にさらされて倒産していく会社と、新しいモノやサービスを生み出して生き残っていく会社は、何が異なるのか、今とても興味があるテーマだ。Economistの記事が説得力がある。

以下は、7年前に『デルの革命』を読んだ時の感想です。

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パーソナルコンピュータ(PC)の日本市場におけるDellの低価格攻勢が企業市場だけでなく、今後伸びが期待されるSOHOと呼ばれる中小企業市場にもおよんでいることが脅威となっている。『デルの革命』を読むことで、デルモデルの強み、日本のPCメーカとの差異が明らかになる。

Dellの革命に書かれている革命の基本は、一言でいって『いかにして、みんなが常識だと思っていることをもう一度疑ってみるか、だれもやっていないことをはじめてやるか』に集約できる。

Dellが重要と考えていること(本から抜粋)
インターネット革命企業の原則
•インターネットを活用して顧客とDell、Dellとサプライヤをよりダイレクトに、かつ低コストでリンクさせる。
•製品・サービスの改善と同じく、それらをいかに効率よく顧客に提供するかが重要である。
•自社の競争優位につながらない業務はその業務が得意な外部の企業に任せる。
•Webでの体験が現実世界の体験のどれよりも優れていなければ真に持続可能な顧客リレーションシップやロイヤルティの創出にはつながらない。

次なる成長に向けたビジョンの創出(1986年秋のブレーンストーミング)
•1992年には売上を10億ドル(1,000億円)にする。
•ブレーンストーミングの内容は、
1)今会社はどんな立場にあるのか?
2)これからどうなっていくと思えるか?
3)どんな状態をめざしたいのか?
4)その状態をめざすうえでどんなチャンスがあり、どうすればそれを活かせるのか?
•会議の結論の1つは、本当に事業を成長させていくには大企業をターゲットにしなければならない。
•第2に大企業を取り込んでいくには、業界他社に比べて断然優れたサポートを提供しなければならない。これが、業界ではじめてパソコンに関するオンサイト出張サービスを生み出した。(1992年の売上実績は86年当時目指した額の2倍、20億ドルを達成した)

1993年はじめて四半期赤字転落
•会社を経営していくのに必要とされる情報が手許にないことが明らかになった。
•事業のさまざまな部分で、コストと収入、利益の関係が十分解っていなかった。
•どの事業が意味があり、どの事業に意味がないか、社内でも意見が一致していなかった。
•感情や主観に基づいて意思決定を行っていた。
•世界で最も収益性の高い企業の一つになるには、その成功の方程式を突き止めることが必要だった。

Dellが自ら長所と思うこと
•自分たちが求めているのは、製品の優秀さだけでなく、優れた顧客サービスに対する評判であり、コストや価格だけに頼ったビジネスでは競争優位は長続きしないことを会社スタート時に認識していたこと。
•製造からエンジニアリング、販売、サポートに至る社内全体を、顧客の要望を理解するプロセスに参加させること。
•他の人が不可能だ、ありえないと思っていることをやるのは楽しい。予想外のことを実現するのはワクワクすると思うこと。
•会社としての優先事項として「やりがいのある、大胆不敵な大目標」を定めていること。

Dellの現状(1999年当時)
•販売員が電話で注文を受けている最中に、商品の利益率を確認できる。
•販売員の報酬は販売した商品の利益率しだいで決まる。
•顧客とのコミュニケーションでは「あなたは1回きりのお客様ではありません。生涯変わらず奉仕いたします」というメッセージを発信している。
•製品切り替え時の過剰・不良部品在庫(E&O)はパソコン1台当り30~50セント。
•1996年6月Web直販開始、半年後の12月には1日売上1億ドル(1.2億円)達成。
•2~3年以内(1998~99年)にはすべての顧客取引の50%をオンラインで行うと計画した。
•購入部品の90%は40社のサプライヤから購入する。
•完成品としてのパソコンの不良率(初期不良率?)は100万台で1,000台未満(1,000ppm)

Dellがやっていないこと
•間接販売はやらない(直販に集中)
•物流会社保有しない(サードパーティロジスティクスに完全委託)
•キーでない部材の調達管理はしない(部材サプライヤが生産計画を見ながらDellに変わって自動補充を行う)
•部品・ユニット不良一次切り分けのみ、対策検討は自ら行わない(サプライヤが品質技術者を常駐させて短LTで分析、課題解決をDell工場オンサイトで実施。課題解決LTが長いと他のサプライヤに乗り換える)
•海外製造委託先企業プロセスの品質監査はDell社員が行わない(資格認定を受けた現地技術者を使ったプロセス監査を実施)
•完成品流通センター倉庫は持たない(工場ドックから直接サードパーティロジスティクス会社に引渡し)

顧客としてのDellへの対応を再考しよう

デバイスサプライヤとして、Dellのようなムダのないオペレーションを基本とする顧客への対応を考えると、日本企業は以下の3つをどうしても成し遂げねばならないと考えます。

1)「他の人が不可能だ、ありえないと思っていることをやるのは楽しい。予想外のことを実現するのはワクワクする」と思う顧客を相手にするには、こちらはもっと変化を好む集団、変化が日常茶飯事という会社になる必要がある。
2)「製造からエンジニアリング、販売、サポートに至る社内全体を、顧客の要望を理解するプロセスに参加させ」顧客の望むことを是が非でもやり通そうとするDellという顧客を相手にするには、Dellと一緒に会社の全部門を総動員してDellの顧客を知る努力をしなければついていけない。
3)「優れた顧客サービスに対する評判が生命線であり、コストや価格だけに頼ったビジネスでは競争優位は長続きしない」と考えている顧客から顧客満足度No.1と認定されてこそ、真のCSナンバーワン企業と認められる。

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