2007-08-26
クレイトン・クリステンセン:イノベーションのジレンマ
ハーバード・ビジネススクールの教授とは、いろいろな出会いがあった。クリステンセン教授とは、有名な"Disruptive Technologies"や"Disruptive Change"に関する論文発表前の1994年にボストンでお目にかかる機会があった。
2006年頃から、グローバルな競争市場が一層フラット化する中、『イノベーション』をキーワードとする国家の競争力、企業の競争力に関する議論が盛んだ。
同じお客さまに対して、同様な製品・サービスを提供しているある企業は利益を上げ続け、成長発展するのに、別の企業は売上も伸びず赤字におちいり、衰退するのはなぜか? ここ10年来、関心を持ち続けているテーマだが、発端はボストンでのクリステンセン教授との出会いだったことを思い出した。
以下は、5年前に読んだ本の読後感想。ところで、読後感想にもでてくる、ハードディスクの会社であるSeagateを中国の会社に売却する話がでている。これが、IBMがPC事業をLenovoという中国の会社に売却したとき同様、国家安全保障にかかわる事項で連邦政府が関与するとなっているらしい。企業の競争力、国家の競争力がグローバリゼーションによりあらゆる壁が低くなりだし、いろいろな構造問題をはらんできている。
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「イノベーション」というキーワードを考えるようになったきっかけはクリステンセン・ハーバード大学教授との出会いである。
1994年11月、1年ぶりで米国のボストンを訪問する機会があった。5年にわたる米国での海外勤務を終え帰国して1年がたっていた。その頃、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と謳われた日本の生産力に陰りが見え始め、モノづくりで常に日本にリードされていた米国は、EMS(製造アウトソーシングサービス)専門企業を生み出した。競争力で負けている製造を自社から切り離す動きをはじめた。IBMやHPは、工場を従業員ごとEMS企業に売却し、その換わりに売却した工場でEMS企業のやり方で同じ製品を作りつづけるというおもしろいビジネスをはじめた。
同じ製品を、同じ作業者が、同じ生産ラインで作りつづけるのに、IBMやHPの時代は赤字で、EMS企業に経営が変わるとなぜ黒字転換できるのかが、どうしても解けない疑問だった。解答をもとめてフロリダのJabil、カリフォルニアのSolectronなど、EMS企業を訪問し、実際に工場を見学させてもらった。その帰りにボストンに寄り、クリステンセン教授をお招きして議論する機会があった。
当時まだ准教授だったと記憶している。1995年1月にHBR(Harvard Business Review)に発表予定の原稿ゲラ刷りを紹介してくれた。それは、HDDでマーケットシェアNo.1のシーゲート社が、HDDの小型化という技術革新になぜ乗り遅れたのかを実証する論文だった。
HDDの最初のお客様は大型コンピュータメーカーであり、1978年当時のHDDはサイズ14インチ、容量200MBが主流だった。この頃8インチHDDは開発途上で、まだ容量20MBがやっとという状況。IBMをはじめとするHDDメーカーは開発の主力を14インチにおいており、新興企業のシーゲートは8インチだけに注力して、小型大容量化に邁進することになる。1985年頃には8インチが14インチを完全に凌駕する性能を実現し、14インチの技術に固執していた企業はマーケットから取り残された。
1985年といえば世の中ミニコン全盛の時。DEC、データジェネラルはじめ優良ミニコン顧客を押さえていたシーゲートは顧客の望む仕様のHDD開発に邁進するため、新しいPCの顧客ニーズに敏感に反応することはできない。この頃、HDD技術としては一層の小型・大容量化に関しての技術革新の芽が出始める。それが3.5インチHDD。ところが、ミニコンメーカーからすると8インチから5.25インチに小型・大容量化が進展したことで充分満足しており、これ以上小型・軽量にする必要性は感じていない。シーゲート技術陣がいくら顧客ニーズ調査を行っても、3.5インチ対応は不要との結論にいたる。
こうしてPCメーカーを主要顧客として3.5インチ技術革新を達成しようとしたコナーペリフェラルズはじめの新興企業は技術革新をやりぬくことができ、一方でマーケットシェアNo.1企業のシーゲートは技術革新に乗り遅れる事態となる。
クリステンセン教授はこうした勝組み企業が陥る落とし穴を「不連続な変化」(Disruptive Change)と名づけ、企業の盛衰はこの不連続な変化をいかに組織として乗り越える手を打つかにかかっていると説く。
よく企業の強みを「コンピタンス」という。コンピタンスとは、一つには抱えている技術者、技術力、設備能力、製品開発力、情報、ブランドなど「資源」と総称できるもの。二つには意思決定や、コミュニケーションや調整力を働かせ、組織を動かすプロセス、強みとする技術力や資源をつかって、顧客の求める製品・サービスを生み出していく「プロセス」そのものが企業の強みの要素となっている。三つ目は、どういう顧客を重要視するか、持てる資源を製品・サービスにどう転換するか、どういう仕事の進め方がよいやり方として誉められかといった従業員の持つ「価値基準」である。勝組み企業は、「資源」と「プロセス」と「価値基準」をどう組み合せれば顧客ニーズに適合するか、ヒット製品が生み出せるかを知っているので、強い売れる商品・サービスを連続して世に出せる。いわば立ち止まって考える必要などない、今まで通りのことをうまくやっていれば成功する安定した市場環境では、勝組み企業の連戦連勝が続くのである。
「不連続な変化」の中、勝ち続けるために
1)社内に全く異なる目標を掲げた別チームをつくる
2)分社化して別会社をつくる
3)他社を買収して他社の強みを生かす
日本企業は、カンパニーワイドのプロジェクトを発足させ、組織の壁を越えて、新しい革新的取組みをはじめている。まさに「不連続な変化」が起きているグローバルな市場で生き残るには、従来の延長線上にない新しい勝パターンを作るためである。顧客(販売店)の先の顧客を見ることなしに、真の顧客ニーズの把握ができないこと。さらには現在の重要顧客だけでなく、新たに各産業分野で起きている「不連続な変化」を見据え、次なる勝組み企業はどこになるかの見極めが大切なことをこの本は教えてくれる。自社のプロセス改革だけを考えたのでは生き残れないことは当たり前として、どの顧客ニーズを実現するかも改革の中心に据えた取組みが必要である。
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