3月から身の回りの小さなしあわせ探しをはじめたが、依然食べることは元通りとはいかず、何を食べても味が変で食が進まない。
そんなときでも、昔食べたものの味は記憶にあって、しきりと思い出す。
第六歌集 香港 飲茶と屋台は、その昔香港に何回か出張したときの昼餉の記憶。
テーブルを回るワゴンにのった一皿は、どれも食欲をそそる香りを漂わせ、ついついどのワゴンも目で追ってしまう。
一皿取るごとにカードに赤のスタンプが増えていく。大根餅などはスタンプ一つ、手の込んだ料理皿はスタンプが三つ。スタンプの数で会計するしくみ。当時は実にアナログだったが、シンプルでわかりやすかった。
香港の昼の路地立てばそのとたん湯気と香りの食の街かな
体育館と思う広さの屋根の下ワゴン巡りて飲茶の香立つ
ワゴン前「あれ何だっけ」と指さして昔の味の小籠包かな
次々と皿平らげてふと見れば会計カードに赤き印の列
腹くちく揚げまんじゅうがもたれつつあれも食べたし悔いの残れり
切り叩き炒める煮るの音つづき屋台の前に人の群れなす
切り取られ白きかたまり鍋に飛び茹であがりゆく麺の椀かな
香り音色かたち見て一皿を目でかぎ味わい汁も残さず
見慣れぬ柄長きスプーンあやつりて隣の夫婦飯汁すすむ
人だかる屋台の椀を吾も取り「うん、うん」と言えば幾重の旨み
椀おきて屋台を去れば昼路地に吾の待ちたる列なお続く
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