レキシントンのモーテルへ着いたものの、車がなければどこへも行けない土地だった。日本のように駅前へ出れば店が並んでいるわけではない。広い道路と森と空ばかりが続いていた。
翌朝、時差で早く目が覚めた私たちは、モーテルの周囲を歩いてみた。するとすぐ近くに、いかにもニューイングランドらしい木造のカフェレストランがあった。白い窓枠、小さな看板、まだ朝の匂いの残る静かな店だった。
二人とも空腹だった。成田を発ってから、まともに落ち着いて食事をしていなかった気がする。
オレンジジュースとコーヒー、それにブルーベリーマフィンを頼んだ。焼きたてだったのだろう。温かな生地から甘い香りが立ちのぼり、口に入れるとブルーベリーの酸味が広がった。その美味しさに驚き、翌日も、その次の日も、私たちは同じ店へ通うことになった。
レキシントンセンターには、散歩をしている旅行者らしい人々がいた。独立戦争ゆかりの街ということもあり、小さな土産物屋や古い建物が並び、時間がゆっくり流れているようだった。ニューイングランドの空は高く、木々の緑も日本とはどこか違って見えた。
だが、のんびりしてばかりもいられない。私たちは大学へ行き、入学手続きを済ませなければならなかった。まだ土地勘もなく、車もない。地図を広げ、バス路線を調べ、片言の英語で人に尋ねながら、どうにか大学へ向かうルートを探した。
何度も乗り継ぎを確かめ、ようやく大学の建物へたどり着いたときには、二人ともほっとして声も出なかった。
ここから先が、本当の「ボストン生活」の始まりだったのである。
――次章 ボストンうた紀行 ケンブリッジ――
時差により早く目覚めし朝ありて異国の空の青を見てゐる
木造のカフェの窓より灯こぼれニューイングランドの朝始まりぬ
オレンジのジュースまぶしく置かれたり長旅終へし卓の静けさ
焼きたてのマフィン割れば湯気のぼるブルーベリーの香の満ちてくる
翌日、そのまた翌日も店にゆく異国に馴染む匂ひひとつに
旅行者のゆるき歩みに混じりつつわれらも街の空気吸ひたり
紙地図を広げて探すバス路線大学遠くまだ見えざりき
やうやくに大学の門くぐりたりここより始まるボストンの日々
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